大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和24年(れ)1836号 判決 1950年9月19日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人大月和男の上告趣意について。

本件の公判請求書には、公訴事実として、被告人は昭和二二年一月二〇日頃から同二三年一月一〇日頃迄の間五回に亘り青森県三戸郡市川村大字水目沢所在米国軍落下傘部隊第一三八部隊の兵舎物干場又は同兵舎倉庫入口から米国軍又は米国軍人の財産たるズツク製編上靴、割烹着、ゴム引雨合羽、ゴム引雨外套、革製編上靴等を窃取した旨の事実が記載されている。第一審判決は、右の公訴事実につき審理した結果、被告人が前記各物品を窃取したという事実についてはその証明なきものとし、唯被告人が昭和二三年一月一三日頃山形県西村山郡寒河江町寒河江駅附近でこれ等の部品を所持していた事実を認定して、これを占領軍物資不法所持罪にあたるものとした。しかるに右第一審判決に対する被告人からの控訴申立を受けた原審は、右公訴事実について更らに審理した結果、第一審判決と見解を異にし、被告人が起訴状記載の日時場所において米国軍又は米国軍将兵所有の前記物品を窃取した事実を認定して、これを窃盗罪として処断したのである。

論旨は、原審第一回公判において檢事が第一審判決書摘示の通り被告事件を陳述したことを論拠として、檢事は占領軍物資不法所持の事実につき審判の請求をしたものであるにかかわらず、原審がそれとは全く異なる判示のような窃盗の事実を認定して裁判したのは審判の請求を受けない事件につき審判をしたものであると主張するのであるが、前記のように原判決認定の事実は公判請求書記載の事実と同一であること明らかであるのみならず、原審公判廷における檢事の右陳述も第一審の審判の対象であったところの、従って第一審判決摘示事実の因つて来る基礎となつた起訴状記載の公訴事実の基本的事実関係を指して被告事件を陳述したものと解すべきであるから、原判決には所論のような違法はない。論旨は理由がない。

よって旧刑訴第四四六条に従い主文の通り判決する。

以上は裁判官全員一致の意見によるものである。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例